スノーボード撮影の裏側|雪山×ヘリ撮影

私がスノーボードDVDの撮影カメラマンをしていたのは、
もう10年以上前。
今のように GoPro や高性能なスマホが当たり前になる前の時代です。
映像作品といえばDVD、SNSもなく、ドローンなんて存在しない。
そんな時代に、
私たちは“本物のヘリコプター”を使って空撮をしていました。
今回は、その過酷でちょっと無茶な撮影の裏側をお話しします。
空撮といえば、今みたいにドローンじゃなくて、本物のヘリでした。
お金も時間も、体力も神経も削れるし、正直ちょっと命も懸かってた。
でも、それが普通だと思ってたし、むしろそれが楽しかった。
今日は、そんな少し無茶で、でも本気で雪山に挑んでいた頃の話を、
ちょっとだけしてみようと思います。

まず一番の敵は「天気」。
ヘリを飛ばす日が決まれば、何日も前から準備して、
スケジュール組んで、雪の状態も確認して、山の許可も取って…
それでも朝になって山が真っ白にガスれば、もうその日の計画はすべて終了。
飛べない。見えない。終わり。
だから、みんなが無言で空を見上げて、
ただ風の匂いと雲の動きだけを頼りに「頼むから晴れてくれ」って祈ってた。

「ヘリで山に入るって聞くと、楽そうでいいよね」
なんて言われることもあったけど、実際はまったく逆。
駐車場に仮設ヘリポートを作って、燃料も機材も全部積み込んで何往復もして…。
山の中腹にベースキャンプを作るところから始めるんです。
テントも電源もない、ただの雪と風だけの場所。

そこからさらにヘリで山頂へ近づくんだけど、
ヘリって雪山のてっぺんには降りられないから、
斜面の上でホバリングした状態で扉が開く。
で、「今だ、降りろ!」って言われて雪の上に飛び降りる。
あの瞬間の足がズブッと雪に沈む感覚と、
全身に走る緊張と高揚感――今でも忘れられません。

地上班はガイドと一緒に、
安全でかついい画が撮れる斜面や尾根を探して立ち位置を決める。
でも地上撮影には一つだけ最高のご褒美がありました。
撮影が終わったあと、ライダーと同じパウダーラインを、
ガイドと一緒に滑ってベースまで降りられるんです。
誰も滑ってない雪の上を、自分たちだけのラインで切り裂く。
あの瞬間は、最高のご褒美であり幸せな時間でした!

ヘリからの空撮は、見た目以上に過酷でした。
海外のプロチームの撮影は、まるで映画のセットみたいなんです。
海外のプロチームの撮影は、まるで映画のセットみたいなんです。
一度だけ、撮影に同行したことがあるんですが…
ヘリコプターの先端にジンバル付きの巨大カメラを取り付けて、
後部座席ではスタッフがモニターを見ながらリモコンでカメラを操作していました。
ヘリの撮影機材だけで、何千万単位!撮影そのものがスケールの違う世界でした。
私たちはカメラを抱えて、扉を開けたまま身体を外に乗り出すスタイル。
もちろん、命綱のハーネスは3本付けています。
風とは氷みたいに顔に刺さるし、指はすぐかじかんで動かなくなる。
骨伝導のヘッドセットでパイロットとやり取りしながら、
揺れる機体の中でライダーの姿を必死に追い続ける。
どんな撮影よりも緊張感があり、過酷で大変な撮影でした。

それでも、空の上から見る景色は格別でした。
真っ白な山の斜面を、ライダーが一本の線みたいに滑っていく。
雪煙が舞い上がって、その向こうから姿がふっと浮かび上がる。
あの瞬間だけ、世界が止まって見えた。
本当に、全部報われたって思える時間でした。

ヘリからの空撮中、忘れられない出来事がありました。
ライダーの一人が尾根と尾根の間を抜けて滑り込もうとした瞬間、
その手前でついた滑走ラインに沿って雪に亀裂が走り、
連動するように雪崩が発生。
滑っていたライダーは足元をすくわれ、
そのまま雪の流れに巻き込まれてしまいました。
私は上空からその様子を撮影していましたが、
ヘリの中では何もできず、ただモニター越しに見守るしかありません。
あのときの無力感と怖さは、今でもはっきり覚えています。
幸い、ライダーは雪に完全に埋まらず、
板の一部と上半身が出た状態で止まってくれました。
すぐに仲間へ無線で状況を伝え、迅速な救助が行われました。
もし、ほんの少し状況が違っていたら——
本当に大きな事故になっていたと思います。

…でも現実は厳しい。何日も準備して、命懸けで挑んで、
それでも実際にDVDに使われる映像はたった数十秒。
でもその数秒の裏には、ライダー、カメラマン、ガイド、
パイロット、整備士、地上スタッフ…
数えきれない人の技術と覚悟が詰まってるんです。
今振り返っても、あの時間は本当に宝物でした。
効率も合理性もない。
でも、あの寒さも、緊張も、笑い声も、ヘリの音も、
全部が貴重な体験だった思います。

時代は変わって、スマホでもドローンでも簡単に撮れるようになりました。
それでも、あの時の雪煙の向こうの景色や空気感、
胸の高鳴りは今でもはっきり覚えています。
もうあの頃みたいに無茶はできないかもしれないけど、
あの日感じた気持ちは今では、良い思い出です。
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